東京高等裁判所 昭和28年(ラ)152号 決定 1953年6月29日
抗告人 堀立身
右代理人 石井嘉夫
相手方
日本化工株式会社
代表取締役職務代行者 金原藤一
主文
原決定を取消す。
本件申請を却下する。
理由
抗告理由は別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。
よつて判断するに、記録につづられた「臨時株主総会開催請求」という内容証明郵便日本化工株式会社作成名義の「株式所有証明」と題する書面、日本化工株式会社登記簿謄本及び東京地方裁判所昭和二八年(ヨ)第二〇四六号仮処分決定写の各記載によれば、阪口勇造、上西康之、日栄証券株式会社は、昭和二八年四月末頃、相手方申請人金原藤一にたいし、臨時株主総会招集の請求をしたこと、右阪口勇造ほか二名はこの請求をする当時より引続き六ヶ月前から日本化工株式会社の株主であつて、その所有株式合計は発行済株式総数の百分の三以上であること及び前記金原藤一は、昭和二八年四月八日東京地方裁判所において前記仮処分決定により代表取締役職務代行者に選任されたものであることがそれぞれ認められる。
おもうに、株主から取締役にたいして商法第二三七条第一項によつて、株主総会招集を請求する旨の書面が提出された場合は、取締役会は会社の業務執行として右の請求を審査し、適法な請求であるときは、総会の招集を決議して総会招集の通知をすべきものであることは商法第二六〇条、第二三一条の規定からみて明らかである。
記録中の昭和二八年二月一四日附「臨時株主総会議事録」及び同日附「取締役会議事録」と題する書面の記載によると、同日の日本化工株式会社株主総会において、これまでの取締役を解任し、中原茂敏外七名を取締役に選任する旨の決議がなされ同人らは直ちにその就任を承諾したことが認められる。
もつとも右会社の登記簿謄本、昭和二八年三月三日附代表取締役水埜文平発信名義のハガキ及び同年五月二九日附相手方(申請人)金原藤一作成名義(上申書)と題する書面の各記載をあわせ考えると、右総会の役員改選による登記事項の変更はいまだその登記がなく、また右総会の決議については、株主総会決議取消の訴(東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第三八六八号)が起されていることが認められるけれども、株主は株主総会の決議による取締役の解任選任について商法第一二条にいう第三者にあたらないと解するのが相当であり、またその選任決議無効の訴がなされても商法第二七〇条によりその職務の執行停止の処分を受ける等、特段の事情がない本件においては、同人らが取締役の職務を行うになんのさしさわりのあるべきはずはないのである。したがつて、右会社は、前記総会で選任された中原茂敏外七名の取締役による取締役会によつて会社の業務執行を決することができる状況にあるといわなければならない。
そうすると、右会社はまず前記の阪口勇造ほか二名の株主総会招集請求について、取締役会を開いて総会招集をするかどうかを決すべきものであつて、この取締役会において招集することに決せられたときはじめて会社の代表取締役職務代行者たる金原藤一は、その通知を発しなければならないものである。
しかるに金原藤一は、この決議をうることなくして原裁判所にたいし「取締役を招集しようとしても、取締役に関する事項につき登記と実際とが符合しないので、取締役会を招集することができず、臨時株主総会招集が常務に属するかどうかについても疑問の余地あり」との旨を理由として商法第二七一条第一項により、臨時株主総会招集許可の本件申請をしたことは(右招集手続が常務であるかどうかはしばらく措くとしても)不当である。もし、これにたいして原審のように許可を与え、これにもとづいて株主総会が招集されるならば、前記認定のように現存する取締役を無視し、その取締役会の業務執行の権限をうばう結果となる。
本件許可申請は右の点でこれを却下すべきこと明かであるからこれを許容した原決定を失当としてこれを取消す次第である。
(裁判長判事 藤江忠二郎 判事 原宸 浅沼武)
<以下省略>